田んぼの真ん中の抜け道を快走していた時に、雨の直後と言うこともあって路肩の雑草達が潤っていました。 それを踏んでしまって成す術も無く横の田んぼに落ちてしまいました。 高さは1.5mくらいでしょうか。 前に進もうとしても後ろに下がろうとしても傾くばかり。 車の中からは横転しているような景色で、私もバランスをとっている要素だとはっきり認識できます。 当時は携帯電話なんて持っていませんでしたのでとにかく外に出なければなりません。 ゆっくり外に出てみると更に傾いて45°を超えるくらい傾いてかろうじて踏ん張っています。
数10分ほど途方に暮れて、取り敢えず歩いて近くの知人の家に向かいました。 すると遥か彼方から赤のテラノがウィンカーを出してこの田んぼ道に入って来ました。 助けてくれるのだろうか?まさか野次馬? 混乱していた私はいろいろ考えた挙句に「恥ずかしい」という結論に至りました。 少し伏目がちに歩いていた私の横でテラノが止まり、
「あの車君の?」
「はい。」
「ちょっと厳しいね〜試してみる?」
(うん。)
何の事か理解できずに言葉にならずうなずいただけでした。
テラノは私の車に向かって行き、少し通り過ぎたので諦めかけたのですが、すぐに停車して運転手が降りてきました。 すると荷物室からワイヤーを取り出し私の車との距離を調整しています。 あわてて駆け寄り牽引してくれる事を確認しました。 涙が出そうになりましたがそこで、
「どんな結果になっても僕を責めないでね。 少し試して無理そうだったらすぐに止めるから。」
確かに、まだ倒れていないので無傷なピックアップ。 これ以上悪化すると間違い無く横転します。
恐る恐る車に戻りいよいよ引上げ作業開始です。 お互いにエンジンをかけてテラノの手の合図でスタート。 ワイヤーがピンと張り私も半クラッチのままアクセルを踏みます。 一度落ちかけたので体中の血が下がったような感覚に襲われましたが、テラノがスリップしながら黒煙を上げて頑張っています。 こちらもアクセルを踏んでようやく車の向きが変わり、横転しているような角度のまま傾斜を登っていきました。
登り始めるとあっという間に道の上に。 お互い笑顔で車を降りお礼を言うと、ワイヤーを手際よく丸めながら、
「厳しかったけど良かったね。」
と爽やかな笑顔を残してあまりにも潔く去って行きました。 連絡先を聞いてお礼がしたいと思ったのですがそんな間も無く。
車が落ちた場所を見ると、急斜面に2本の太い線できれいな弧を描いてました。 しばらく荷台に座って晴れ渡る空を眺めながら、今起きたすばらしい出来事の余韻に浸っていました。
当たり前のように、スマートに私を助けてくれたテラノの方にありがとう。 |