「口こみ」 という表記に出会ったことがある。 もちろん 「口コミ」 のことなのだが駆け出しの校閲記者だった私は辞書を

引くまで何か変だな としか思えなかった。 「口コミ」 「口こむ」 なんて言葉もありそうな気がした。

 おしゃべりが連なる・・・・・口がこんでくる・・・・・口こむ という感じだ。

 口コミの コミは、コミュニケーションの略。 学習研究社の国語大辞典によると、マス・コミ (マス・コミュニケーション)のもじりで

1963年にできた語という。 65年生まれの私が物心ついたころには、日本語として定着していたのではないだろうか。

 漢字文化圏外の外来語をカタカナで書くのは一般的な習慣だと思うが、口コミの 「コミ」 に外来語のにおいがあまり感じられな

かったのだ。

 又 サポタージュの略語 「サボ」 を動詞化した 「サボる」 が 「さぼる」 になったり、ダブルの動詞化 「ダブる」 が 「だぶる」 と書か

れたものも しばしば見られる。

 「授業をさぼる」 「風景がだぶってみえる」 とあっても違和感がない。

 多分省略されたり、動詞化することで日本語としてなじみ同化してきたせいでもあるだろう。

 同化したということでいえば、バッテラ や ポン酢 それにテンプラ カルタ もともと外国語であったことを知らない人も少なくない

だろう。 同様に 口コミ や サボる は外国語から生まれたという事実も忘れられていくのかもしれない。

                                                         毎日新聞       上田 泰嗣



                                                                   



44号