●「新性能電車」モハ90系
1957(昭和32)年、国鉄最初の新性能電車モハ90系(後の101系)が登場しました。
この電車は通勤用ですが、その技術は新幹線にまで踏襲され、以後の国鉄型電車の技術的な基礎は、この電車によって確立されています。
奥のオレンジ色の電車が90系です。
GMの101系の改造で10両フルに作りました。
このページのジオラマ製作…山田敦様 撮影…高橋政士様。
ところで「新性能車」といっても何が新しくなったのでしょうか。
端的に言えばモーターと駆動装置関係です。
小型軽量、高速回転のモーターを採用し、モーターは「自在継ぎ手」を介して台車本体に取り付ける「カルダン式」といわれる駆動システムをとっており、この点が従来の電車と大きく異なっているため、この方式を採用した電車を特に「新性能車」或いは「高性能車」として分類します。
従来はモーターを一方は台車本体に直に、一方は車軸の上に荷重してモーターの重量を支えていました。
この方式を「つりかけ式」といいますが、これではモーターに直接車輪の振動が伝わるためモーターを頑丈にしなくてはならず軽量化の妨げになりますし、線路側に対してもモーターの重さ分の衝撃が緩衝されることなくかかってくるという問題があったのです。
また90系では「ユニット方式」といって、動力車として必要な機器を複数の車両に分散配置してユニット化し、従来は走り装置が1両ずつ独立していた電車を「ユニット」単位で扱うことによって編成全体の重量を均等化、軽量化する方法も採用されました。
ブレーキの改良も行われ、「発電ブレーキ」が採用されます。これはブレーキ時には惰性で回っているモーターに負荷をかけ(抵抗器に回路をつなぎ、熱を発生させる)、発電機として作用させてブレーキ力を得るというものです。
私たちが自転車に乗っているとき、ライトをつけるとペダルが重くなる状況を思い出して頂ければ「発電によってブレーキ力を得る」状況がおわかり頂けるかと思います。これにより、高速域からでも安全に、磨耗部分がない形で止まれるようになりました。
このあたりの技術は私鉄の方がかなり早く実用化していました。しかし特にカルダン式を採用した駆動装置の強度については慎重論もあったことから、満を持しての登場となりました。
90系は試作車1本がまず造られ、様々な試験を行います。そしてその年東海道本線で行われた高速度試験では、通勤型であるにも関わらず135km/hという記録を出し、同時に静かで揺れない電車であることも証明しました。
こうして国鉄は「電車の時代」へと大きく前進していくのです。
鉄橋を渡る90系と量産型の101系。
路線別ラインカラー導入も、101系が勢力を拡大した頃から始まりました。
実は同じ年、画期的な軽量構造と高速性を備えた小田急ロマンスカー3000系電車(SE車)が異例ともいえる特別な措置によって、東海道本線で高速度試験を実施、145km/hという狭軌鉄道の世界記録を出しており、国鉄ではこの時に貴重なデータを得ています。
一方、「特急用」ではない四角四面の通勤電車が135km/hものスピードを出していることにより、90系が採用した各種の機構の優秀さも証明され、いよいよ来るべき「新幹線」の時代へ向けて基板が固まってくる時期を迎えます。
東海道本線の線増が「広軌(標準軌)、別線、高速列車専用」というスタイルに固まるまでに、実はもう少し時間がかかるのですが、その間に技術的な実績は着々と積み上げられていくことになります。
続く 戻る