「兄ちゃん、ワープロ買おうと思うんだけど何がいいかな。」
昨年、弟から相談を持ちかけられた。
ワープロについては話し出すときりがないので、そのときはこう答えた。
「うちの会社に山本というコンピュータおたくがいて、彼はNECのパソコン『PC98』、キャノンのワープロ『キャノワード』、富士通のワープロ『オアシス』を持っている。
会社ではアップルの『マッキントッシュ』を使っているけど、ワープロとしては『オアシス』が一番だと言ってるぞ。
オアシスなら親指シフトがいいよ。」
他人の名前を借りてオアシスを勧めているが、実は私自身が強力なオアシスフリークなのだ。
この助言が効いたかどうかその後、弟はオアシスを買った。
勿論親指シフトを。
(親指シフトとは、かながJIS配列とは異なるキーボードの規格の一つ)
ワープロ専用機は20万円前後の製品ならば、どのメーカーでも大差ないと思っている。
これはここ10年くらいの大きな進化を経た結果、通常の使用(文書作成、作表、図形、表計算、住所録等)では大きな性能の違いはなくなって来ているからである。
では何でもよいかというと、そうではない。
ここでコンピュータ、ワープロ暦8年の筆者が賢いワープロの買い方を披露しよう。
1.メーカーの選択が全てを決める
ワープロという製品は、その操作性がすべてである。
どうやって書式を決めるか。
漢字はどう変換するか。
変換の訂正はどうするか。
罫線はどう引くかメーカーによってすべて異なる事を知っていなければならない。
操作性が異なるということは簡単に他のメーカーに乗り換えるのは難しいということなので、最初に決めたメーカーと末永く付き合う覚悟が必要である。
よく雑誌には
「店頭でさわってみて、自分に合ったものを選びましょう」
なんて無責任なことを書いているが、どの操作方法が自分に合っているかはとてもわからない。
メーカーを決めてから操作に慣れるしかないのである。
そこで何を基準にメーカーを選択するのか。
ポイントは次の2点。
・ワープロ市場に今後もしっかり製品を送り続けることができるか。
ブームにのってワープロ市場に参入したが、売上が芳しくないので縮小→撤退してしまうようなメーカーは問題外である。
セイコーエプソン、ブラザーはすでに撤退。
ビジネス機時代の経験がなく、パーソナル部門から参入した松下、ソニー、三洋、ミノルタ、カシオは要注意。
・既存ユーザーを無視して、メーカーの都合で新製品を作るようなことはしていないか。
技術の進歩により、よりよい性能の新製品が安く提供されるのは仕方がないが、既存ユーザーを無視する結果となったメーカーがある。
他社との性能差を縮めるためにフロッピィのフォーマットを変えたカシオ。
(以前のフロッピィが使えない)
キーボードの削除キーの配置換えを2回行った東芝。
キーボードのかな配列をJISから新JISに変えて、またJISに戻したキャノン等のメーカーは要注意。
2.20万円前後の新製品を買え
これもよく雑誌に
「自分は何に使うのかよく考えて、それに見合った機能のものを選びましょう」
と書いてあるが、購入しようという人はある程度ワープロに夢をみているのだからあれもしたい、これもしたいと思ってしまい、冷静な機能選択はとても困難である。
そこで多機能で印刷も綺麗で処理も早い20万円前後(いわゆる売れ筋)を選んで損はない。
販売店を選べば15万円以下で手に入る。
又、幾分割引している旧製品は得かという質問については、まず新製品にしたほうがよい。
ワープロは人間がプログラムを書いて作るコンピュータソフトなので、新しいもののほうが見えない部分で安定している。
また新製品のほうがトラブル発生時のメーカーの対応がよい。
(交換してもらいやすい)
3.パソコンよりもワープロ専用機を選べ
ノートパソコンが普及し始めた時、その大きさと値段が近づいたため 「パソコンVSワープロどっちが得か」
という企画が関連雑誌でもてはやされた。
「ワープロだけならワープロ専用機、拡張性をとるならパソコン」
という、それなら比較の意味がない結論でお茶を濁していたと思う。
パソコンとワープロは基本的には同じものでワープロはパソコンの一機能である。
と、いかにも自分はコンピュータ通だぞという顔をしている人を知っているが、これは大きな間違いである。
日本語ワープロの一号機(東芝トスワードJW−10 630万円)が出た1979年にはパソコンなど存在していなかったのだ。
パソコンはワープロ専用機が開発した日本語処理機能をアメリカ生まれの基本ソフトに取り込んで、追いつこうとしている段階である。
それとは別に単独で発展していったパーソナルワープロの方が現状でははるかに使いやすい。
パソコン本体、ディスプレイ、プリンター、基本ソフト(MS−DOS,MS−WINDOWS)とワープロソフトを合わせた値段が、たとえワープロ専用機より安かったとしても(考えられない!)日本語で文章を作成するのならワープロ専用機を購入した方がよい。
4.なぜオアシスか
1.2.3.をふまえて一機種選ぶならば、富士通オアシス30LX501親指シフト仕様 19万8千円になる。
オアシスについては印刷の条件設定がわかりにくいとか、文中で改行キーを押すとその行が消えるとか、若干の問題点もあるが、次の理由で選択する価値があるといえる。
・ビジネスワープロでオアシスはトップシェア。
パーソナルワープロではシャープの書院や東芝のルポの方がシェアが大きいが、問題はビジネス部門である。
日本語に深くかかわっている業界(出版業、印刷業、速記関連等)ではオアシスは常識であり、他の業界でも主流派である。
ということは、富士通は古くから多数のオアシスユーザーを抱えており、その結果サポート体制が大変充実している。
また、オアシスが使えるということは、プロの分野でその能力を活用できるチャンスが多いのである。
・親指シフトキーボードが使える。
10人中9人までがローマ字入力でキーボードを使用していると思われる。
私もかつてプログラマーだったのでローマ字入力は当然だった。
しかし、親指シフトを試してから一週間で入力スピードは逆転した。 親指シフトは最適であると確信しているが、現在は少数派である。
かつてワープロ入力コンテストがあったが、富士通がこのキーボードで上位を独占してしまうため中止となった歴史がある。
一昨年富士通はこのキーボードの権利を日本語入力コンソーシアムという団体に開放し、他社も採用してよいのだが、ワープロ専用機はまだオアシスのみである。
(勿論親指シフトでもローマ字入力は可能)
ちなみに筆者が現在所持している機種はオアシス30AFVという3世代前のものである。
もといた会社には当初キャノワードが入っていたが、所属していた部にはオアシスを入れさせて、結果的に喜ばれ普及していった経験がある。
かなり強引な文章だけれど、これからワープロを購入しようとしている人には参考になるところがあると思う。
(C)Ken Nishijima 1993.7
あれから4年、日本はすっかりパソコンブームでワープロ専用機は衰退の一途ですが、初心者にとってはまだ専用機の方が使いやすいようです。 (96年12月にノートパソコンを購入した二郎は今だに苦労している)
ワープロ専用機から撤退するメーカー予測は結構いいところかなと思いますが。
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