家を買いに...5

 4倍の物件に当たって、当選おめでとう祝いを家族でおこない、飲みすぎて二日酔いぎみの土曜日の朝10:30。
 落選した岡野町のセールスマンから電話がかかってきた。
 「当選されたお客様が、昨夜ローン審査に落ちまして、次点の西嶋様に購入権が移りました。」
 なんだって!!!
 落選ショックで落ち込んでいた6日前とは打って変わり、いきなり2つの物件の購入権利を手に入れてしまった。
 もし、昨日の4倍の物件に落選していたらこの電話は天からの恵みの声であり、
 「天は我々を見捨てていなかった」
 と、両手を広げてひざを大地につけ、空を仰ぐところだけど、あまりにも状況が変わっていた。
 とりあえずその場での返事は避け、その日の午後4時に電話をもらうことにした。

 人間の心理というものは不思議である。
 冷静に考えれば、当初第一希望の岡野町の物件で何の問題はなく、星川の物件の方を妥協した
 (狭くて高価で庭付きをあきらめた)
 にも関わらず、電話を置いたときは
 「今更、岡野町の物件なんて未練はないやい」
 という気分だったのだ。
 まぁ、それも無理はない。
 落選が決まったときから、岡野町の件は忘れようとし、ほんのささいなことでも星川の物件の方がいいに違いないと信じる努力を5日間してきたのだ。
 そして、4倍という難関を突破して見事当選、2倍で落ちても4倍で受かるなんてニシジマ家はこうなる運命だったのね、そうなのね。
 星川のセールスマンさんありがとう。
 あの時、申し込みの決断を促してくれたあなたが、落胆のどん底から私たちを救ってくれたのね。
 この恩は忘れないわ。
 一生あなたについていくわ。
 と、家族4人「星川万歳」のときの電話である。
 こんな状況で岡野町の物件の繰り上げ当選を聞かされても、大丈夫1倍で押さえますからって安心させたくせに、落としといて今更なによ。
 ほー、ローン審査で落ちるような人を申し込みさせたわけ。
 あんたのところの手落ちね。
 うちに擦り寄ってきても手後れよ。
 うちらだってねぇ、ただの馬鹿じゃないのよ。
 ちゃんと手を打って見事当選に持ち込んだんだからね、まったく。
 おとといきやがれってんだ。
 という、裏切った相手を見返してやりたい?的な心理状態であった。
 又、子供は転校しなくてよくなったことが大きな利点であり、
 (星川に決まってんじゃん)
 という反応であった。

 意表を突いて午後4時に岡野町のセールスマンが家にやってきた。
 対応に出た私は、お断りの返事をしたが、執拗に粘られ、結局返事を翌日延ばしとすることになった
 実はセールスマンと話しているうちに、私の気持ちは変わっていた。
 今の心理状態なら岡野町が不利なのはあたりまえである。
 2つの選択枝が与えられたということはニシジマ家の試練ではないのか。
 どちらの物件を選べは家族がより幸せになれるかなんてわからないが、少なくとも勢いとか流れで決めたなら、後で問題が起こったときに一生後悔するだろう、と考えたのだ。
 その夜の家族会議。
 状況は一転し、岡野町派に父親、息子、娘が寝返り、星川派に母親が残って事態は深刻化していった。
 岡野町派の主張は「初心に帰ろう」であり、星川派の主張は「建物の資産価値は星川が上」であった。
 しかし、星川派は少数派となった為に
 「どうせ私さえあきらめればいいのね」
 という後ろ向きの姿勢が現れ始めたのだ。
 いかん。
 家族の幸せの為に家探しを始めたのに、これでは本末転倒になってしまう。
 何か、決定的な判断材料が必要である。
 そこで、星川派の弱点である騒音問題を実地調査しに全員で車に乗り込み、サティ星川店の駐車場(屋上)に入った。
 土曜日の23:00である。
 踏み切りと電車の音が直接耳に届いた。
 そして、国道16号線はこの時間帯でも交通量が非常に多く、無用にクラクションを鳴らす車や、違法マフラーのバイクが通過したあたりで、星川派はだまりこんだ。
 間取りの違いや、設備の違いについては住んでから工夫すればよい。
 マンション自体に問題があれば管理組合で解決する方法がある。
 でも、道路や鉄道の騒音については解決方法はない。
 今後、窓の開けられない生活に耐えられるのか。
 という説得についに星川派はうなずいたのである。

 こうして一転二転した家選びもようやく決着を見たのであった。
 (いや〜疲れました。ホント)


(C)Ken Nishijima 1999.6