土篩(つちふる)い男

 2003年1月25日からジャガイモを植える畝の整備に入った。
 通常なら、完熟堆肥18L(298円)と肥料を鋤きこんでおくだけだが、今回は篩(ふるい)をかけることにした。
 開墾したときに大きな石とガラスや瓦片などをとったが、まだまだ石が取りきれていなかった。
 毎年大根を作っているが、ミニサイズばかりで大きくならないのは、おそらく石交じりの土のせいだろう。
 根菜やいも類は深く耕して土を細かくする必要があるらしい。

 直径30センチで目が五ミリ角の篩(ふるい)にスコップ半分の土を入れてゆすってみると、これがびっくり!
 錆びて膨れた釘、細かなガラス片、レンガ片、瓦片、そして石、石、石。
 もうこの畝では2年半、4回作付けをし、その都度大きな石から消しゴムサイズ位の石までは取り除いてきたつもりだったが、篩ってみるとこのありさまである。
 作物の出来が今ひとつなのも当然か・・・

 それから私は恐怖「土篩い男」と化した。
 なにが恐怖なのか。
 その日から3月30日までの約2ヶ月間。
 毎週末、一日5〜6時間。
 ジャガイモ用以外の畝も作物が空く都度、合計約3畝分の土を延々篩い続けたのである。
 週末、雨以外の日は必ず庭で土を篩っているのである。
 カシャカシャと音を立てて篩っているのである。
 朝から夕方までず〜っと。

 作業は単純。
 1.畝部分の土を深さ30センチくらいまで掘り起こす。
 2.掘り起こした土を篩いながら戻す。
 3.篩に残った石を堆肥が入っていたビニール袋に入れる。
 以上。

 作業は単純だが、効率という面ではとんでもなく悪いということに気づき、初めの頃は
 「省略しては?」
 「テキトーでいいんじゃない?」
 「次の機会でも?」
 という言葉が頭を巡った。
 篩っても篩っても進んでいるという実感が沸いてこない。
 しかしとうとう最初の一畝分の土を篩い終わり、畝立てをしたとき、
 その出来栄えに感動し、次の畝を掘りはじめていた。

土篩い 畝
土篩い初日(1.25) 最初の一畝(2.23)

 単純に揺するだけでは土の塊が残るので、手で押し潰しながら篩うのだが、これがえらく力がいる。
 どうやら粘土質の土が多く、湿っているといくら潰しても砕けない。
 そこでさらに指先に力が入り、トータル8組のゴムつき軍手の指先に穴が空いた。
 力任せに潰すだけではいけない。
 ようやく住み着いてきた畑の友達ミミズ君を間違えて潰さないように、内容物を観察しながら手を動かす。
 (ミミズの糞は高級肥料として市販されているらしい。)

 振り返ってみると、1畝分を篩うのに丸3日間、15〜18時間。
 それを約3畝分も本当によくやったと、自分で自分を褒めたいが、妻と子供はひたすらあきれていた。
 (さて、残りの2畝分はいつやろうか)

 洗濯物を干しに出入りするマンションの隣の奥さんとはその都度挨拶するのだが、いつもいつも週末は必ず庭で土を篩っている私を見ては、
 (あらあら又いるわ。まったくもう。いったいいつまでやるつもりかしら。)
 と不気味に感じていたに違いない。

 庭の向かいの一戸建てに住んでいるおばさんもこの土篩い男に気づいて道路からフェンス越しに声をかけてきた。
 「まあ、熱心に土の手入れをされて。花壇?」
 「いえ、野菜を・・・」
 「へぇー、お庭で野菜を。それで」
 「ん?・・え、はい。こっちがたまねぎで、その奥はジャガイモを植えました。」
 「ほー、ジャガイモを。楽しみねぇ。」

 篩いに残った石を入れたビニール袋は延べ数で約100袋。それを5回に分けて相模川の河原へ自然に帰しに行った。
 当然、篩いをかけた畝の土は全体の1〜2割位少なくなった。

 そこまでして手をかけた土はいったいどうなったか。
 篩うことにより土くれは細分化して空気を十分含み、ふわふわのしっとりさらさらになったのだ。
 ジャガイモは3月2日に植え付けた。
 篩った残りの畝には4月中旬に枝豆とトウモロコシを撒き、5月上旬にトマトを植える予定である。
 これで前と同じ出来ならショックだよなぁ・・・・

篩い土 石
篩い土(3.23) 篩、畝押し板、石(3.29)

篩い土
ページュの場所が篩った土

 4月19日。
 新しくできたホームセンター「コーナン」で直径40センチの篩を発見。
 アッチャー。遅いっちゅうの。


(C)Ken Nishijima 2003.4