●「ひょうきん族」現る
前項でお話しした「短編成・フリークェントサービス(頻繁運転)」の広がりと共に1984(昭和59)年、80年代後半の動きを決定づける車両が登場しました。
「月光型」電車を改造した、普通列車用の715系です。
715系電車。東北バージンの車両で、1000番代の番号になっています。
マイクロエース完成品です。
1982(昭和57)年、東北、上越新幹線が開業したことによる在来線ダイやの再編成、そして旅客そのものの落ち込みから列車を減少させる「減量ダイヤ」が実施された「57・11改正」といわれるダイヤ改正が行われました。
この改正では長距離特急や寝台列車は大幅に削減され、高度成長時代に大活躍した「月光型」電車は、大量に余ってしまいました。「月光型」はアシは速かったものの、接客設備が中途半端になってきており、敬遠されてしまったのです。
これを有効活用し、地方幹線の普通列車の電車化を進めるために登場したのが715系で、当時本来の役目をほぼ終えて格下げされてきた「急行型」と共に活躍を始めます。
715系は寝台特急が普通列車になったという点もスゴイのですが、十数両連結して走っていた寝台特急を4両単位の列車に仕立てるため、編成中間に来る車両に運転台をつけた車両がたくさん登場したというのも、大きな特徴です。
運転台取り付け改造は始めてではありませんでしたが、こういう改造が一度に大量に発生したのは始めてのケースでした。715系の場合は予め運転台ブロックを造っておき、従来の車体の一部を切り落として接合するという合理的な方法で工期の短縮をはかっています。
715系は1984(昭和59)年2月の「59・2改正」といわれるダイヤ改正から活躍を始めましたが、この改正では貨物列車が大幅に削減され、ローカル線の「転換」が始まったダイヤ改正でした。
その中になりふりかまわず「デッチ上げ」の様なスタイルで登場したこの電車は、鉄道ファンに「世も末だなぁ」と思わせた存在でした。
この種の改造車はやがて他の車種にも出現し、雑誌が「国電ひょうきん族」というタイトルで特集を組んだことから、一時この言い方が流行することとなります。
(自宅で撮影)
715系登場の背景は余剰車両の有効活用です。
しかしそれを掘り下げると、当時いかに「幹線の普通列車」の電車化が遅れていたかを知ることが出来ます。
当時は電化された幹線でも、普通列車用には旧客を使った客車列車やディーゼルカーが数多く残っているケースが多くありました。
これは機関車を客貨両方に使用して能率を上げる、非電化路線と車両を共通に運用する等の理由によるものです。
しかし客車列車については貨物列車が減少し、当初の目的からはずれて機関車も客車と一緒に休んでしまうケースが増え、非能率が目立つようになりました。
ディーゼルカーも運用エリアの多くが電化区間というものが多くなってきており、問題視されるようになってきます。これらはアシが遅く、電化のメリットを充分生かせない運用だったのです。
715系登場翌年の1985(昭和60)年、今度は「ひょうきん改造」の手法が大々的に特急列車に取り入れられました。
特急の短編成化にあたっては「先頭化改造」の他、広域配転や車種間改造が大がかりに行われ、珍車奇車怪造車のオンパレードになってしまいます。
改造を受けた特急車はまず鹿児島本線などで運用を始め、効率化を図りました。
鹿児島本線に登場した先頭化改造車。
上はクモハ485型。
下はグリーン車クロ480型。
いずれもKATO製品の改造ですが、改造車の委託販売を見つけて買ってきたものです。
高価でしたが、自分の手に負える改造ではないので、よい買い物だったと思います。
さて、広島シティ電車に始まった「短編成・フリークェントサービス」の施策は少しずつ拡大し1985(昭和60)年の「60・3改正」、そして「国鉄最後のダイヤ改正」とうたわれた1986(昭和61)年の「61・11改正」で、非常に大きな広がりを見せました。
この時にも数多くの先頭化改造車が投入され、新幹線にまで先頭化改造車や6両という短い編成が登場しました。
ところが、この施策の採られた地域では列車が増えて便利になりましたが、列車一本の両数は減ったため、少し乗客が集中すると大変な混雑を招くことが大きな問題になります。
九州では大動脈の鹿児島本線に3両編成の特急が出現し、立ち客がぎっしり出る列車が見られるようになりました。電化が完成した福知山線では22時台の大阪駅にたった2両の列車が入るようになって殺人的な混雑が問題化し、いくら何でも行き過ぎという意見が続出しています。
等間隔運転やスピードアップに伴いかなり無理なダイヤ設定をしたため、ダイヤの乱れが慢性化した地域もありました。
とはいえ、問題の「混雑」についてはJR発足後にダイヤや運用の手直しが行われたり、新車が増強されたりしています。依然として問題が残っている地域や列車は少なくないようですが、かなり是正はされたといってよいでしょう。