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過ぎた日の微笑みを
3人しかいなかった音楽部男子部員も顧問の山本先生の努力により、担任していたクラスの徹君や生徒会の村松君、大会が終わった野球部の安藤君など3年生を集め約10名まで増えていった。
音楽部員は朝連で腹筋、足上げ、足こぎをそれぞれ35回。
腹式呼吸と発声練習の徹底。
共和中学校での合同練習。
湘南市民コール常任指揮者の関屋晋先生の指導。
等を経て、めきめきと実力を伸ばしていった。
そして夏休みに行われたNHK合唱コンクール中学生の部で神奈川県大会最優秀賞(1位)
関東甲信越大会優秀賞(2位)に輝いたのだった。
そこで、前章の終わりの続きとなるんだけども、いやーまったくこっぱずかしくなってきたなぁ。
彼女はアルトのパートリーダーで皆にミースケと呼ばれていた。
小柄だったがクレオパトラを思わせる黒い髪。
そして大きな力のある黒い瞳をしていた。
(ここからサイモンとガーファンクルの「スカボローフェア」をバックグランドミュージックで流して下さい)
吸い込まれるようにその瞳を見つめていると、なんと相手も見つめ返してくるではないか。
一度ならず二度、三度。
ソプラノパートの演奏中。
教室から教室への人ごみの中のすれちがい。
体育館へつながる渡り廊下。
(ここで桜並木へカメラはパーン)
特に個人的に付き合ってるとかなんでもなく、部活が終わってぞろぞろと集団で下校するメンバだっただけなのに、噂は噂を呼びニシジマとミースケはなんとなくそういうことになっていたのだ。
(一度だけ共和中学校の体育祭へ二人で行ったなぁ。健全だったなぁ。)
音楽部の3年生は秋の文化祭で引退となる。
文化祭が部活動の最後の日なのだ。
出し物の前半は合唱曲だが後半はフォークソングなど肩の力の抜けた曲目だった。
その中の一曲に、ビリーバンバン作曲、石坂浩二作詞の「さよならをするために」があり、歌い始めの2フレーズはミースケのソロパートだった。
当日、出番を待つ体育館の外の緊張の中で耳の後ろが熱くなってきて、手のひらがむずむずとかゆくなっていた。
神奈川県1位の合唱を聞きに来た観客で体育館は満員である。
ふいに思い付いた。テノールのヒロツグにこっそり話したら。
「いいよそれ。絶対受けるよ」
と、持ち上げられてその気になってしまった。
舞台は後半、やわらかなピアノの前奏からミースケのソロパートに移り、スポットライトが彼女に当たる。
「♪すぎたひのほほえーみをー」
するとおもむろにニシジマ少年が一歩前に出てデュエットを初めたのだ。
「♪みんなきみーにあーげるー」
照明係は慌てて彼にもスポットを当てた。
指揮をしている山本先生も知らない、勿論ミースケも知らない、突飛な行動を奴はやってしまったのだ。
奴は馬鹿だった。受けたい、目立ちたい、その気持ちが先に立って、彼女の晴れの舞台に土足で踏み込んでいたのだった。
しかし、歌い終わって顔を紅潮させていた奴には何もわかっちゃいなかった。
これを若気の至りと言うのだろうか。
奴は彼女に愛想をつかされ、それから1年半に渡り、口を利いてもらえなかったのだ。
この章を書き終わったところでもう耳の後ろが熱くなってきて、手のひらがむずむずと・・・

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