家を買いに...1
家を買うことにした。
それは、妻が
「もうこんな生活いや!!」
と、切れたからだ。
現在、県営今宿団地に住んでいる。
家賃のことを話すとヒンシュクを買うのだが、27,400円である。
「えー!何で、そんなに安いの?」
と聞かれるが、入居したときは15,000円だったのだ。
こっちとしては、驚きの値上げ率である。
神奈川県の財政難の影響を受け、2年後には36,800円まで引き上げが決定しているのだ。
このデフレ時代に家賃が2.4倍!!
いやいや家賃の話はもうよそう。
問題は妻が切れてしまった理由だった。
彼女は食器洗いをしていた。
私は歯磨きを終了させる為、彼女の左背後から口を突き出しシンクへ唾液を放出した。 そしてそのとき勢い余ってわずかではあったが彼女の手と、洗ったばかりの皿に、白濁ねばねば液が付着してしまったのである。
「もうこんな生活いや!!」
そう。我が家には洗面所が無い。
今宿団地は昭和48年築である。
風呂場はあるが、洗面所は設計されていないのだ。
<<ああ、あこがれの洗面所のある生活!!>>
我が家の間取りは2KS 6畳、4畳半、キッチン3畳、2.5畳のサービスルーム(全体で約40u)で、そこに、夫婦と13才の息子、10才の娘が暮らしている。
4畳半とキッチンの間のふすまをとりはらって居間に、サービスルームは息子の部屋として使い、6畳に私と妻と娘が寝ている。
6畳には娘のディスクベッド(二段ベットの一階が机と洋服掛けになっている)、タンスが2つ、本棚、電子ピアノ、テレビが置いてある。
その家具のわずかな隙間へT字型に布団を敷いて、私と妻が寝るのだ。
妻は、ベットから降りてくる娘の足に顔を踏まれそうになり、私は廊下へ向かう娘の足に1/3の確率で踏まれる。
<<ああ、あこがれの娘に踏まれない生活!!>>
♪せまいながらも楽しい我が家〜
という歌があり、かつて私もその気分であったが、だんだん
♪せまいがゆえにせつない我が家〜
の状況に追い込まれているのだ。
それに設計当時は「断熱」という考え方が希薄だったのか、おびただしい結露と、それに伴うカビの発生に悩まされている。
カビについては風呂場やトイレは勿論、すべての部屋のカベ、天井、玄関へとすぐに覆ってしまう。
そこで、この間の休みにカビキラー吹き付け作戦を展開したが、台所と居間だけで何と2本半を消費してしまった。
カビキラーを使ったことのある方はご存知だと思うが、一度に大量散布すると、目は痛いは、喉はむせるは、匂いはきついはで散々なのだ。
2本半による空気汚染は激しく、窓を開放していたにも関わらず2日間つらい状態が続いた。
<<ああ、あこがれのカビに囲まれない生活!!>>
というような状況が重なって、今宿団地脱出構想というのが浮上したのであった。
つづく。
(C)Ken Nishijima 1999.5
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