●雪との闘い、予算との闘い
ー ちょっと逆戻り…
  東海道新幹線開業の陰にー



 東海道新幹線では開業後から雪によるトラブルが多発し、長い年月をかけて対策が講じられています。
 これは「どん底時代の新幹線…1」にも書いたとおり「雪の舞い上がり」が原因でした。舞い上がった雪が車体に凍り付き、これが暖かい場所で落下、線路に敷かれた石をはね飛ばして、機器や窓ガラスを壊してしまうのです。
 盛り土に砂利を敷いた「バラスト軌道」は建設費は安かったのですが、維持管理に手間と費用がかかり、加えてこういう現象を起こすという欠点も露呈することになってしまいました。



 砂利を敷いた「バラスト軌道」(上↑)と、東北・上越新幹線に採用されたコンクリート造りの「スラブ軌道」(下↓)。
 従来の鉄道から採用されてきたバラスト軌道は、列車の度重なる荷重によって狂いが生じるため、常に維持管理が必要です。
 スラブ軌道はコンクリートの堅固な構造物の上にレールが敷かれてあり、長所は多いのですが、建設費がかかります。
写真は「バラスト軌道」のところだけ「ポポンデッタ秋葉原店」で撮影させて頂きました。



 具体的な対策としてはスプリンクラーで少量の水をまいて雪が舞い上がらないようにする方法が採られ、様々な雪対策と共に効果を上げるようになりました。
 本当なら上越と同様温水で雪をとかしてしまえばいいのですが、東海道ではこの方法を採ると盛り土の道床がゆるんでしまうため、余り盛大にお湯をまいたりは出来ません。結局どこまでもバラスト軌道の欠点がつきまとうことになったわけです。
 そして現在でも時として「床下の雪落とし」という人海戦術を要することがあり、関係者の苦闘は続いています。
 とはいえ、東海道新幹線の建設はまさに予算との戦いだったことは、忘れてはならないでしょう。
 最新技術を導入しながらも「いかに安く建設するか」という工夫も、実はあちこちに見られるのです。
 また、新幹線の建設には世界銀行からの借り入れも行われており、資金面の他「この計画を絶対に頓挫させない」後ろ盾としても大きな役割を果たします。
 こうした努力はなされたものの、東海道新幹線の建設費は当初見積の1900億円が3800億円と倍になってしまい、予算不足という問題が噴出しました。更に関係者が予算不足を知っていながらそれを隠していたのではないかという疑惑も発覚し、国会でも問題になってしまったのです。
 実際の所土木事業というものは見積と実際の費用が解離することが多い、というより普通であり、関係者のさじ加減でかなり数字は変わります。当時は急速な経済成長で人件費や資材が急騰、用地買収もことのほか難渋するなど、当初予想できなかった要素もありました。
 しかし調査の結果、関係者が予算オーバーの状態を内密にしていたことがわかり、国鉄総裁だった十河信二、技師長の 島 秀雄などは責任をとる形で退陣に追い込まれてしまいます。
 ただ、これについてですが、
「はじめから必要な予算を提出すると、費用が大きすぎるとして建設が頓挫しかねない」
と、あえて少ない予算を見積もって建設に青信号を灯し、責任追及を受けることも最初から計算済みだった…という説が本当のところで、当初から3000億円は必要という見積が出ていたものを、1900億円として提出したとされます。
 また予算不足を国会で追求された背景には、新幹線の恩恵を受けない、或いは新幹線建設により地元路線建設の予算配分を後回しにされた地域の国会議員などによる「十河おろし」という力が働いていたことも、大きく関係していました。
 ともあれ、新幹線建設に長い間尽力したにも関わらず二人が東海道新幹線の開業式に立つことは、なかったのでした。
 ただ彼らは
「やるだけのことはやった。新幹線が実現して本当によかった」
という思いで、開業式のニュースを見ていたといわれます。


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